テーマ: 南伊の伝統習俗
開催地: Novoli
開催日: 1月16〜18日
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ラ・フォーカラ(La Focara)は文字通り“炎の祭典”と呼ばれる、冬のプーリア州で最も人気をあつめるお祭りの一つです。毎年1月16〜18日の3日間にわたりレッチェ市郊外、北西10kmの場所にある小さな村ノーボリ(Novoli)で行なわれるフォーカラのお祭り。プーリア州内でとくに注目度が高く、その会場となるノーボリ村も、別名“炎の街”として広く知られています。
お祭りの主役は、底面が20m四方そして高さが25mにもおよぶ巨大なピラミッド型の焚き火です。なんとこの焚き火の山は、伐採・剪定された9万本以上ものブドウの幹や枝のみを巧みに積み上げてつくられたものなんです!これはヨーロッパ各地のお祭りでみられる焚き火のなかでも最大のものです。
ブドウの木のみでできた焚き火の山を築くのは、ノーボリ村の男たち総出で行なう大がかりな作業で、お祭りの1ヶ月以上前からその準備がはじまります。イタリアワインの一大名産地でもあるサレント半島、ノーボリ周辺の広大なブドウ畑から、ブドウの木の束が集められます(一束で約200本のブドウの枝)。
そしてお祭りの8日前、1月9日に薪木の積み上げ作業が始まります。村に代々伝わる伝統的な方法で、ハシゴと人力だけを用い、100人を超える村の男たちが、薪木を高く積み上げていくその流れるように統率のとれた美しい職人技は、観ているだけでホレボレとしてしまうほどです。お祭り本番だけでなく、チャンスがあればぜひこの鬼火の山をつくる準備作業もご覧いただけると、とっても興味深いと思います♪
こうして一週間をかけて積み上げられた焚き火の山は、お祭りの前日1月15日にようやく完成します。最後の薪木の一束が山のてっぺんに積み上げられると、小さな聖アントニオの像がちょこんと飾られます。
そしていよいよお祭りの初日1月16日、焚き火の山の頂上に盛大な花火で点火されます。その炎はしだいに大きく下方へと広がっていき、その後三日三晩燃えつづけます。
ところでいつ頃から、またなぜノーボリ村のお祭りに、このように巨大な鬼火が登場するようになったのでしょうか?現在のようなお祭りの形式に定まったのは1905年からということで、意外にも歴史は一世紀あまりと短いのですが、焚き火の山を作り冬の夜に暖をとる風習がノーボリに古くからあったことは、すでに中世ビザンツ帝国時代の文献からも明らかになっています。
3〜4世紀のエジプトに生きた聖アントニオは、1664年正式にノーボリの守護聖人と定められました。伝説によれば聖アントニオは地獄の炎を拝借し、それを人々に分け与えたのだとか。こうしてキリスト教世界では、聖アントニオは炎を司る聖人とされ、聖アントニオにちなんだノーボリ村で焚き火の風習がはじまったと一説には言われています。
一方、より現実的な説明として、古くから聖アントニオの聖遺物が納められているノーボリへ巡礼の旅で訪れる中世の巡礼者たちが、冬の夜の屋外でも暖をとれるようにという村人たちの計らいで、焚き火が焚かれるようになったとも言われています。
いずれにせよ、ノーボリ村で冬空の下、大きな焚き火をたく風習が、少なくとも3世紀半以上続いているのは間違いないようです。さらに、キリスト教改宗以前より土着の風習のなかで、このような焚き火がすでに存在していたとも一部では考えられているようです。
プーリア州でとても人気のあるこの炎の祭典は、南イタリアの各地からも多くの観光客が訪れるほど現在では有名なお祭りとなりました。お祭りの3日間はさまざまなジャンルのコンサートが開かれたり、地元名産品の販売スタンドや屋台も軒を連ねとても盛り上がりをみせます。なかでも“Parco del Negroamaro”は、地元サレント地方のワイン醸造者から名産の絶品ワインを直接買える機会として、観光客にも人気を博しています。
ノーボリを含むサレント地方北部でとくに栽培が盛んな、南イタリア産の上質な赤ワインを代表するネグロアマーロなど、さまざまなプーリアのワインを飲みくらべて体の中から温まるのもイイものですよ♪